2026.10.09 属人化はなぜ起きるのか——Why / What / How の三層で”手放せない知”の正体を見る

属人化を解こうと動いてはみたが、”そもそも、なぜこんなに難しいのか”を腹落ちさせたい方へ。

「マニュアルは作った。それでも、あの人がいないと回らない」——属人化は、なぜこんなに根強いのでしょうか。手順書を整えても消えないのには、はっきりした理由があります。

しかも、これは特定の会社だけの悩みではありません。経済産業省・厚生労働省などがまとめる『ものづくり白書』でも、技能の承継について約8割の企業が不安を感じていると報告されています(「不安がある」15.2%+「やや不安がある」65.2%)。要因の上位に並ぶのは、ベテランの高齢化・退職、受け手となる中堅・若手層の不足、そして日々の業務が多忙で指導の時間を確保できないこと——。心当たりのある方は多いのではないでしょうか。

先に結論を言うと、属人化が起きるのは、仕事の知のうち”いちばん渡したい部分”が、そもそも手順書の形式からこぼれ落ちるからです。なぜこれほど広く起きるのか。その構造を、仕事の知を3つの層に分けて見てみます。この3層は、私たちが現場に最初に当てる”診断レンズ”でもあります。

仕事の知は、3つの層でできている

一つの仕事の知は、外側から順に3つの層に分けられます。

三層モデルの同心円図。外側からHow、What、Why。
外側のHowほど見えやすく、奥(核)のWhat・Whyほど見えにくい。

たとえば、商業施設の清掃で「10時・14時・17時に点検」という手順(How)は決まっている。でも実際には、テナントの業種や客層、集客状況などの前提条件(Why)を勘案し、さらにその日の天気や混み具合を見て「どこを先に回るか」「ここは頻度を上げるか」という判断(What)を変えている。同じ手順書を渡しても、できる人とそうでない人で差が出るのは、この奥の層が働いているからです。

属人化の本体は「手順」ではなく「判断」にある

ここが肝心です。手順(How)は書けるので、比較的かんたんに共有できます。ところが、属人化している知の本体は、その奥のWhat(判断)にある。そして判断は、そもそも言葉にしにくい。

哲学者のマイケル・ポランニーは、これを「人は、語れる以上のことを知っている」と表現しました。自転車の乗り方を言葉だけで完全には説明できないのと同じで、熟練者の「なんとなく、こっちだと思った」の中身は、手順書のマス目からこぼれます。だから、手順だけを一生けんめい文書化しても、いちばん渡したかった判断は、個人の中に残ったまま。これが、マニュアルを作っても属人化が消えない、いちばんの理由です。

実際に伴走したある現場でも、これが起きていました。ある専門機関の事務部門は、案件を「前に進める」判断と「基準に満たないものは止める」判断の両方を任されていて、その多くが規定ではなく各担当者の”解釈”に委ねられていた(Why)。手順書はある。でも「どこで止めるか」の判断は、長年の担当者の頭の中だけにあった。この前提(Why)があったからこそ、手順書に載らない判断(What)が個人に張りついていった——三層で見ると、そういう例です。

さて、この現場ではどのようなことが起こっていたのでしょうか。案件ごとに個別の対応や判断(What)を求められ続けた結果、イレギュラーなローカルルールが膨大な量になってしまったのです。その量の多さから、業務の標準化や手順化が進まなくなってしまい、属人化がさらに加速する、という負のスパイラルが起こっていました。実際に、同じようなことが多くの会社で起きていると感じています。

やっかいなのは、WhatとWhyの「沈み方」が違うこと

もう一段だけ。奥の2層(What・Why)は、どちらも「言葉にされていない」点では同じですが、言葉にされない”理由”が違います。ここを知っておくと、現場での見立てがぶれません。

「なかなか出てこない――そこにこそ、渡したい判断(What)が眠っている」と読めるようになる。出てこないことを、本人の能力や意欲の問題だと片づけずに済むのです。

では、なぜ「解消」まで難しいのか

ここまでが「なぜ属人化が起きるか」でした。もう一つ、多くの人がぶつかるのが、「言葉にできたはずなのに、次の人がうまく使えない」という壁です。じつはこれは、知をどう引き継ぐかという別の軸の問題で、層の話とは分けて考える必要があります。長くなるので、この”引継ぎ”の話は別記事にゆずります。

最初の一歩:手順書の外にある「判断」を、一つ探す

構造が見えると、最初の一手が変わります。属人化を解こうとしてまずマニュアルに手をつけるのは自然ですが、それはいちばん見えやすいHowの層。効くのは、その奥の判断(What)に狙いを定めることです。

具体的には、「この人の仕事で、手順書には絶対に載らない判断は何か」を、一つだけ探してみる。全部を一気に言葉にしようとしない。一つ見つけて、「あの場面、なぜそう決めたんですか?」と、具体の場面に戻って理由を聞く。——その引き出し方(いきなり深く聞かず、浅く広く出してから掘る)は、別記事で詳しく書いています。

まとめ


やってみる

あなたの職場で「あの人がいないと分からない」仕事を一つ思い浮かべて、その中の”手順書に載らない判断”を一つだけ挙げてみてください。それが、属人化を解く最初の一歩の起点になります。


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